南ア北部 三峰岳(2999m)、安倍荒倉岳(2693.0m)、新蛇抜山(2667m)、黒檜山(25m)、西農鳥岳(3051m)、農鳥岳(3025.9m) 2015年8月8〜11日  カウント:画像読み出し不能

所要時間
8/8 7:04 野呂川出合−−9:14 両俣小屋(休憩) 9:39−−10:28 野呂川越−−12:04 休憩 12:20−−13:25 三峰岳(休憩) 14:09−−14:57 熊ノ平(幕営)

8/9 4:10 熊ノ平−−4:43 安倍荒倉岳−−5:32 新蛇抜山(休憩) 5:41−−6:34 安倍荒倉岳−−6:58 熊ノ平(休憩) 8:29−−8:50 2695m峰−−9:16 崖−−9:26 2670m峰−−9:40 2666m峰−−10:27 黒檜山(休憩) 11:02−−12:02 2666m峰−−12:19 2670m峰−−12:24 休憩 12:29−−12:31 崖−−12:56 2695m峰−−13:11 熊ノ平(幕営)

8/10 4:05 熊ノ平−−4:46 三国平−−5:19 三国沢(水場)−−5:34 水場−−6:10 間ノ岳縦走路に合流(休憩) 6:26−−6:37 農鳥小屋−−7:43 西農鳥岳−−8:09 東農鳥岳(休憩) 8:50−−9:15 大門沢下降点−−10:06 水場 10:11−−10:40 大門沢小屋(幕営)

8/11 4:12 大門沢小屋−−5:23 取水堰−−5:31 林道(工事現場)−−6:01 開運随道−−6:17 奈良田第二駐車場−−6:25 奈良田第一駐車場

場所長野県伊那市
静岡県静岡市
山梨県南アルプス市
年月日2015年8月8〜11日
天候
山行種類一般登山+藪山 3泊4日幕営
交通手段マイカー+バス
駐車場奈良田に駐車場あり
登山道の有無熊ノ平〜黒檜山以外はあり
籔の有無熊ノ平〜黒檜山以外は無し
危険個所の有無熊ノ平〜黒檜山以外は無し
山頂の展望安倍荒倉岳、黒檜山以外は大展望
GPSトラックログ
(GPX形式)
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コメント2度目の黒檜山を熊ノ平から攻めてみた。簡単かと思いきや、ハイマツの藪や痩せ尾根、そして崖などの障害が前半に集中的に登場し、距離は短いがかなりの難易度だった。黒檜山に登るなら三峰川側から登った方がいい


熊ノ平〜黒檜山間ルート図
熊ノ平〜黒檜山間核心部ルート図


奈良田バス停。本当はちょっとずれてるのだが 広河原→北沢峠行バスチケット売り場の長蛇の列
野呂川出合。広河原へ下る登山者が1名 野呂川出合ゲート
林道から見た仙丈ヶ岳 両俣小屋の車。まだ林道は続く
両俣小屋のテント場。日陰で昼も快適そう 両俣小屋
野呂川越に向かう シラビソ樹林が続く
野呂川越
熊ノ平から黒檜山につながる尾根 森林限界を超える
尖ったピークが三峰岳 三峰岳までもう少し
熊ノ平から黒檜山
熊ノ平小屋とテント場 人がいる場所が間ノ岳との鞍部
間ノ岳との鞍部 三峰岳山頂
三峰岳から見た農鳥岳〜黒檜山
三峰岳から見た北側の展望
間ノ岳山頂の登山者 熊ノ平へ向かって下る
振り返る
ヤバそうな尾根だなぁ・・・ 井川越
熊ノ平テント場案内 水場。水量豊富
トイレ 最も三峰岳側に設営
翌朝、新蛇抜山に向かう途中の岩場から
岩場から見た中ア(クリックで拡大)
岩場から見た乗鞍岳 岩場から見た槍穂
振り返る 新蛇抜山向けて登山道を外れる
先端が新蛇抜山 新蛇抜山山頂。ケルンあり
新蛇抜山から北側を見る 新蛇抜山から見た改築中の塩見小屋
新蛇抜山から見た360度パノラマ展望(クリックで拡大)
新蛇抜山から見た北ア(クリックで拡大)
安部荒倉岳入口 登山道から安部荒倉岳までちょっとだけ
安部荒倉岳山頂
安部荒倉岳から西側を見ている
安部荒倉岳から見た黒檜山の尾根 2670m峰の次がヤバそうな・・・
熊ノ平到着 トイレ側に一番近いテント場が最良地
最良地に移設。日陰で昼寝もバッチリ まだテント場はガラガラ
テント場から斜面に取り付く 最初は歩きやすいシラビソ樹林
ダケカンバに切り替わる やがてハイマツ
立ったハイマツ帯に突入 藪が薄い北側縁を進む
ガレは歩きやすい! 2695m峰。ハイマツの海
2695m峰から西を見る 北側はガケで下れない
尾根に戻るが頭上はハイマツが蓋をしている 南斜面の草付きを下った
草付きから西を見る 鞍部で北側のガレ縁に移動
振り返る。北斜面は歩けない地形 立ったハイマツの痩せ尾根を西へ向かう
写真では分からないがハイマツの隙間あり 最初の2670m峰の西側が崖で南を迂回中
崖を横から見ている。トラバースには厳しい 一段下がった場所で崖基部を巻けた
2640m鞍部から崖を見上げる 2640m鞍部から見た2つ目の2670m峰
1か所だけ目印を見た 2670m峰の北をトラバース中。尾根上はハイマツ籔
北斜面が急になり尾根へ。この通りのハイマツ藪 尾根の南側に回ると歩きやすいシラビソ樹林
南斜面をトラバースし続けたが尾根上もシラビソだった 2重山稜の真ん中に獣道
2666m峰 北へ向かうが最初は尾根が不明瞭
ハイマツは無く歩きやすい 2530m付近の鹿のヌタ場?
2485m峰付近」 2450m鞍部
黒檜山への登りにかかるとシラビソ幼木が鬱陶しい 2520m肩に乗る
生涯二度目の黒檜山山頂 三角点
KUMOは健在。でも塗装が劣化 山頂だけ上空が開ける
2485m峰の岩。いい目印 西側の2670m峰。尾根上はハイマツ
崖の手前で休憩 このすぐ先が崖。樹林で見えない
崖を見上げる。帰りはここを直登した 往路のトラバースした南斜面への棚
崖の最後が登れず北にトラバース
ここから尾根を目指した
崖の上に出た。またハイマツ藪突入
刃物の切り口としか思えない できるだけハイマツを避けて歩く
ここは北を巻けないので南へ乗り移る 2695m峰への登り返し
2695m峰南斜面は草付きで歩きやすい 2695m峰山頂
2695m峰から東を見ている 熊ノ平到着
周囲にテントが増えた 一つ北側のテント場
いい場所は満杯になった 翌朝。まだ暗い時刻に出発
三国平 間ノ岳南をトラバースする
間ノ岳を見上げる
三国沢を横断。水が流れていた 三国沢から400mほど先にも水場あり
農鳥沢へ大きく高度を下げて登り返す 間ノ岳〜農鳥岳縦走路に合流
農鳥小屋 西農鳥岳への登りから見た熊ノ平
西農鳥岳への登りから見た黒檜山への尾根
昨日歩いた仙塩尾根
新蛇抜山だけハゲている 天気がいいのに雷鳥登場
3000m肩から見た西農鳥岳 西農鳥岳山頂標識。でも地形図上の西農鳥岳の西側ピーク
西農鳥岳山頂標識ピークから見た南半分の展望(クリックで拡大)

ここが地形図の西農鳥岳

西農鳥岳から見た東農鳥岳(農鳥岳)
西農鳥岳から見た間ノ岳
農鳥岳山頂 農鳥岳から見た雪投沢
農鳥岳から見た北半分の展望(クリックで拡大)
農鳥岳から見た南半分の展望(クリックで拡大)
大門沢下降点へ向かう 大門沢下降点
大門沢下降点から見た大唐松山
ここから激下りの始まり 2600m付近の平坦地
大門沢源頭 2050m付近で沢に下れる場所あり。水場として使える
水量豊富で思いっきり水浴びした この岩の向こうが登山道
1840m付近の沢にかかる橋。ここは水があった 大門沢小屋
小屋の裏で思いっきり水浴び! 沢沿いの樹林帯で幕営
まだ暗い中を出発 橋を渡る
橋を渡る 橋を渡る
警察関係者が上がっていった 発電取水堰にかかる吊橋
沢の水の多くは発電用導水トンネルに消える ただ今林道造成中
う回路 川原に下るが伏流で水がほとんどない
林道工事現場 登山道はこの吊橋を通る
林道から登山道へ入る場所に休憩所 登山道入口
止まっているのは警察車両 途中の沢で汗を洗い流す
導水管巡視路入口 ゲート
開運隧道
奈良田第二駐車場
奈良田第一駐車場。まだ満杯状態


 今回はお盆休みを利用して避暑で高山に上がるのと同時に、以前登った山を別ルートで再訪してみることにした。目的地は熊ノ平。アプローチが悪くどこから入っても遠い場所で私も1回しか通過したことはない。今回はここで幕営して新蛇抜山と黒檜山を訪問することにした。

 新蛇抜山は登山道が東を巻いているので山頂を通らないから、前回登ったときは登山道を外れて森林限界を超えてケルンがある尾根筋に出たのだが、午後で熱雲が上がってガスってしまい周囲が見えずに本当に山頂だったのか未だに確信が持てないままであった。当時はGPSはまだ普及していなかったので私も持っていなかった。そこで今回はぜひとも正しい山頂を確認しようと言う企画だ。天気さえ良くて展望があればGPSの出番はないだろう。

 黒檜山は10年以上前に三峰川沿いの林道から日帰り往復で登っている。当時は林道入口にゲートはなく大曲のゲートまでマイカーで入れたので比較的容易に登れたが、今は杉島から10km以上の林道アプローチがあるので自転車を使っても日帰りはほぼ不可能だろう。とはいいつつ、近年ネットで見る記録は全て三峰川側から登っている。

 数年前の記録だが1件だけ熊ノ平に抜けた記録があり、既に記憶が薄れて詳細は忘れてしまったが、簡単に歩けるような尾根ではなかった記述があったことだけは覚えていた。私が最初に黒檜山に登ろうと計画した段階では、登山道から最短距離で行ける熊ノ平から往復が最有力候補だったが、師匠と仰ぐKUMO氏が三峰川側から日帰り往復したとの情報でそちらに切り替えた経緯がある。今回は熊ノ平から往復だ。先人の記録を読んで予備知識を蓄えることも可能だったが、面白みが半減するためあえて読み返すことをしないで現地へ向かった。

 今回はお盆休みの天気予報が良好で超久しぶりの3泊4日の日程とした。新蛇抜山と黒檜山以外は目的地は決めなかったが、入山ルートは最短コースである野呂川出合から両俣小屋経由とした。これなら1日で熊ノ平に到達できる。 2日目に新蛇抜山、黒檜山と登ってそのまま熊ノ平で幕営。3日目は下山準備で下界に近いところまで下って幕営し、4日目のお昼くらいに東京着できるように考えよう。

 車で入るのは奈良田とした。こちらは芦安と比較して東京から遠いし駐車場は狭いが、第1駐車場バス停に並べばほぼ座れるのが確実なこと、大門沢か笹山東尾根を下れば帰りのバスを気にしなくていいことが理由だ。芦安から入ると帰りも必ずバスを使う必要があり時間制限がつく。

 金曜夜に奈良田に到着すると第1駐車場は満杯だったが少し手前の草ぶれた駐車スペースが空いていたので駐車。朝方にはここも埋まっていた。始発バスの30分くらい前にバス停に並んだが充分に座席確保できる範囲内だった。今日も天気がよく暑くなりそうだ。4日分の食料が入ったザックは重かった。

 今日は奈良田発のバスは2台でどちらも第1駐車場で人を乗せたので第2駐車場で乗ってくる登山者のほとんどが座ることができない状態だった。バスに揺られて約1時間で広河原へ到着。さらに北沢峠行きのバスに乗り換えるがチケット売り場の列の長いこと! どうやらバス乗車口でもチケットを買うことができたらしいが、確証が持てなかったので30分くらい並んだだろうか。バスはダイヤとは無関係にピストン輸送状態だった。この後、芦安方面から5台のバスがやってきてさらに長蛇の列になったそうだ。

 バスに乗り込む際、行き先を聞かれて野呂川出合で下りる私は最後に乗車させられた。これは当然の処置で補助席まで使って人を運ぶため、奥の方に私が座ってしまうと野呂川出合で下りる時に補助席の人は席を畳んで私が通行できるようにしなければならないからだ。先頭の補助席に座ればそんな手間は無し。なお、野呂川出合で下りる乗客は私一人で他は全員北沢峠行きだった。

 野呂川出合で下りると広河原行きのバスを待っている男性が1人。私は靴紐を締めて出発。バスでの案内で両俣小屋付近は熊が出るとのことで最初から熊鈴を取り出す。広河原とは違って最初から一人だけの静かな歩きは好ましい。ただし長い林道歩きだが。大きなアップダウンは無いが両俣小屋まで片道10km強あるので2時間はかかりそうだ。先は長いのでのんびりと歩いた。既に標高は1800mあるので気温は低くて快適だ。途中、野呂川出合へと下る2人組とすれ違った。あとは川で釣りをしている男性を見かけた。

 林道終点より手前で両俣小屋の車が止まっていた。この先はまだ林道は続くが川縁では増水すると道が荒れて普通車では厳しいのかもしれない。ただし歩いた感じでは今なら小屋まで車で入れそうな。

 何年ぶりか思い出せないくらい久しぶりに両俣小屋到着。テント場は木陰なので日中でも涼しく昼寝できるいい場所だが幕営するには早過ぎる時間だ。休憩ついでに朝飯を食う。小屋の前では釣り人が話しをしていた。この小屋はもしかしたら登山者よりも釣り客の利用の方が多いのかもしれない。小屋前の休憩所で休んでいた登山者が先行して出発していった。

 休憩を終えて出発。小屋から野呂川乗越までは急な登りが続く。荷物が重いので急坂は堪える。ただしずっと樹林で日陰なのでそれほど暑くはない。野呂川乗越で小休止してから出発。ここから三峰岳までじわじわと登りが続く。上部は森林限界を越えて日陰がないので樹林帯で少々休憩。その間に登山者数人が通過していった。さすがに北岳とは比較にならないほど仙塩尾根の利用者数は少ない。

 標高が2700mを越えると森林限界を突破、視界が開ける。今日の天気予報では大気の状態が不安定で雷雨の可能性を伝えていたが、今のところ雲は多いがまだガスは上がってきていなかった。このまま熊ノ平まで持ってくれるといいのだが。途中で両俣小屋を先に出発した登山者を追い越す。あちらも荷物満載のようで足が重そうだった。

 三峰岳直下で岩場が登場、左を巻いて間ノ岳へとつながる尾根に乗る。ここにはザックがデポしてあり主は間ノ岳往復中らしい。急な岩場を少し登れば標高2999mの三峰岳山頂。3000mに僅かに届かないが上半身は3000mを越えているだろうから吸っている空気も3000mの空気だ。高いケルンが積まれているのでここは3000mを越えているだろう。ここまで来れば小屋まで下るだけなので大休止。途中で追い越した登山者も上がってきた。そしてトレラン姿の3人組も。広河原出発とのことだがまだまだ体力的には余裕がありそうな。

 三峰岳から西を見下ろすと黒檜山がよく見える。簡単に往復できるだろうと予想していたが、ここから見ただけで懸念事項が2つ挙がった。一つは小屋の裏山である2695m峰のてっぺん付近は緑の絨毯で覆われていることで、あれは間違いなく立ったハイマツだろう。そうか、標高的には森林限界ギリギリなのでハイマツがあるのが当然か。黒檜山は2500mくらいなので三峰川側から登ったときにはハイマツは皆無だったが、熊ノ平から攻める場合はそうはいかないようだ。

 もう一つの懸念材料は2695m峰西側の尾根北斜面に続くガレ。いかにもヤバそうな雰囲気を放っている。ここからは南斜面が見えないので尾根の痩せ具合は不明だが、南も崖状だと通過はかなり危険と見た。今回は補助ロープを持ってこなかったが後悔の念が・・・。ここを通過できなければ黒檜山には届かない。南側を巻けることを祈るばかりだ。

 大休止を終えてトレラン3人組を追うように小屋へと向かう。トレランナーも岩場は苦手らしく私の下るスピードとほとんど差はなかった。やがて森林限界を割って樹林帯へ。鞍部の井川越を通過すれば熊ノ平のテント場の一角に到着する。

 前回、熊ノ平は通過しただけなので記憶がないが、ここのテント場は小さなスペースが分散しているようだった。最初のテント場はヘリポート兼用で比較的広く、ぱっと見た感じではここしか空いていなかったので初日はここに張った。ただし樹林帯ではなく開けた場所なので日が当たる時間帯はテント内にはいられない。この1段上、2段上にも小さなテント場があり、小屋側に進んだところとそこから下がった場所、さらに小屋に近い場所にもスペースあり。特等席は一番小屋に近い樹林帯の中だろう。ここならトイレに一番近い(と言っても100mくらい離れているので匂いはない)し、日陰になるので昼間でもテント内でゴロゴロ可能。地面は石ではなく土なので寝心地もいい。翌日はこちらに宿を移した。

 小屋で幕営手続き。ここは\500/人。どの登山口からも離れた山奥だし、普通は仙塩尾根を縦走しないと利用しない小屋なので利用者数はそれほど多くはないと思う。それでも近年はテントブームらしく2日とも幕営地点はほぼ満杯状態だった。ここはそれほど広くないのでせいぜい20張がいいところだろう。地面が傾いていてもいいならもう少し張れると思うが。

 夕方も遅い時刻になってお隣さんが到着。広河原を出発して北岳、間ノ岳を越えてここまで来たのだから健脚だ。南ア南部まで縦走するそうで、帰りの公共交通機関を考えるとどこで下山するか悩むところらしい。何だかんだで暗くなる寸前まで立ち話してしまった。そんな会話中、もう暗闇が降り始めた時刻にトレランナーが到着。水場はどこか聞いてきたので教えてあげたが、考えてみれば小屋に泊まるつもりではなくこのまま先に進むから水場だったのかもしれない。トレランでも兵の世界は我々の常識は通用しない。

 暗くなってから酒を飲んで寝た。明日はいよいよ黒檜山アタックだ。

 寝坊してしまった急いで朝飯を食って4時過ぎに出発。早朝のこの時刻はまだ暗く行動を始めている人は少ないので前後に明かりは見えなかったが途中の樹林帯で後ろから追いついた人がいた。安部荒倉岳を過ぎると徐々に明るくなってきたが樹林帯の中はまだ暗い。樹林を突き抜けて岩の露出した小ピークでようやくライト不要の明るさに。ここでは数人が休んで朝飯の調理中。岩影で弱風も防げていい場所かもしれない。ここから新蛇抜山方向を見ると山頂らしきピークが見えている。前回はガスの中で周囲が見えない+GPS無しで山頂同定に自信がなかったが、今回はGPSは持ってきているがこの天気ならGPSで確認するまでもないだろう。

 再び樹林帯に潜って緩やかに進んでいき、小ピークを東から巻くところが新蛇抜山である。ここは割と顕著なピークなのではっきりと地形が読める。山頂へ続く東斜面下部はシラビソ樹林で地面付近は藪は皆無で適当に這い上がるとすぐに森林限界を抜けて草付きの開けた斜面に変わる。稜線直上のみハイマツに覆われているので直下の草付きを南へと進むと、山頂と言うより肩が登場。これより先は高度が急激に落ちる場所でここが新蛇抜山山頂だ。ここだけは尾根直上のハイマツが切れて草付きが続き、小さなケルンが積まれている。この風景、前回登ったときに見たものに間違いない。ちゃんと正確な山頂を登っていたのだ。視界が無い中でも我ながらなかなかの読図技術だったようだ。山頂で少々休憩しながら展望を楽しむ。今日も天気は上々、遠くの山々まではっきり見えている。

 さてこれから向かう黒檜山へのルートだが、ここから見るといやらしいことに2695m峰と2670m峰の間に絶壁状の急斜面が見えている。ここから見ると木が生えているので詳細は見えないが、本当に垂直に近い崖なのかもしれないし、見る角度が悪くて尾根直上ではなく手前の斜面の一部がそう見えているだけかもしれない。真相は現場に行ってみないと分からない。あ〜あ、本当にお助けロープを持ってくればよかったなぁ。

 休憩を終えて小屋へ逆戻り。昨夜長時間立ち話した男性は蝙蝠岳をオプションに加えて本日の宿となる山伏峠へと向かっていった。

 小屋に戻ってまずはテントの移動。日陰がない場所から樹林帯へ移住。皆出発したばかりでまだほとんどテントは無いので優良地を確保できた。少し横になって体力回復を図り、飯と水を持って本命の黒檜山へと向かう。さて、何時にここに戻ってこられるか。あの崖が実在し、それを通過できなければとんぼ返りだろう。服装はハイマツ漕ぎに備えて長ズボンに長袖としたので暑い。

 テント場の斜面から適当に取り付いてまずはシラビソ樹林帯を登る。ここは藪なし。すぐに明るいダケカンバ帯に入るがここも藪無し。高度が上がると徐々にハイマツが出てくるが、できるだけ薄いところを選んで進んでいく。ここは広い斜面なので尾根直上を進んでいるのかまったく分からなかったが、後でGPSを見たらかなり北寄りを登ったようだ。

 全面ハイマツ帯に突入したらがむしゃらに進むしかない。標高が低く森林限界に達せず立ったハイマツなのでやっかいだが、坊主山のような高密度ではなくそこそこ隙間があるので掻き分けることが可能。偶然にも尾根北側を進んだので三峰岳から見えていたガレの縁に出たが、ここはハイマツが無いので非常に歩きやすかった。ただし、ヘタに足を滑らせれば谷底までガレを滑り落ちてしまう。尾根直下のみ傾斜が緩いところがあるのでそこを狙って進んでいく。

 しかし条件がいい区間はすぐに終わって、その先は切れ落ちた崖に変わって尾根上のハイマツ藪に潜り込むしかなくなる。出たのはちょうど2695m峰てっぺん付近で一面立ったハイマツの海だった。どうもこの先もしばらくはハイマツが続きそうだ。

 ピークから下りにかかり、尾根直上ではなくやや南寄りを下っていった。通過してから振り返ってみたら尾根直上は岩峰等があって進むことはできない地形だった。帰りは往路よりもっと南を巻いたが、そちらは草付き斜面で藪が薄くて歩きやすかった。

 小鞍部に達するとしばらくはハイマツの尾根上を進む。尾根は痩せていて北側がガレ、南はガレは無いがハイマツ、シラビソ低木が密集した急斜面でとてもトラバースできる状況ではない区間が多い。一番楽なのはハイマツが無い北側のガレの縁(砂礫地)を歩ける区間で、できるだけそれを利用した。そんな場所が無くても尾根の左右に草付き等の小規模な谷地形があって、全体の5割くらいはハイマツを避けることが可能だった。ただし、尾根直上の立ったハイマツの藪中では左右を見通すことは不可能で、ちょっとずれれば藪が無い場所があったとしてもそれに気付くのは難しい。

 苦労しつつハイマツの尾根を進むと切り立った肩に到着。足元は濃密なハイマツなのでその下の様子が見えないが、えらい角度で落ち込んでいるのでたぶん崖の上だろう。高さは10mくらいで補助ロープがあればぶら下がって下りられる高さだが、岩に慣れない人間がフリーで下るのはヤバそうだ。

 ここは下れそうにないのでハイマツの中を少し南に下ってみたが、すぐに足元が切れ落ちた(と言ってもハイマツ密集だが)崖の上に出てしまった。ここからは尾根上の崖を真横から見る格好だが、かなりの急斜面だが一枚岩ではなく、下部は土の壁で木が適度に生えているのでここはクリアできそうだが上部は急な岩。これはロープ無しで下るのは無謀だろう。今いる場所からうまくトラバースできれば崖が終わった鞍部にたどり着けそうだが、その間は主に草付きで手がかりの乏しい急斜面。突破できる可能性はそれなりにあるが転落すれば数m落ちてしまうので軽い怪我で済むとは思えない。私は黒檜山は山頂を踏んでいるので、こんなところで命を賭ける必要性はないのでここは無理をしないと決断した。

 しかしここで撤退はもったいない。今いるこの崖の下数mにはそこそこ斜度はあるが人間一人が歩くには充分な幅の棚があり、そこに到達できれば崖の基部に出ることができて、崖を巻いて鞍部に到達できそうな予感。どうにか基部に下りられないか、南斜面を下れる場所を探すことにした。ここは崖の上だしこれより西側も崖なので東に戻るしかない。しかしハイマツの急斜面をトラバースするのは地獄だった。おまけに足元も見えずヘタにハイマツの隙間に落ちれば崖下転落の危険性もあるのだった。

 少し横移動するとハイマツが切れて草付きの斜面が登場。そう、そこは崖ではなく急斜面であった。どうにか下れそうな斜度なので滑らないよう草や潅木に掴まりながら慎重に下り、傾斜が緩んだら西へと横移動。ここはずっと草付き斜面が続いて藪漕ぎは不要だった。うまい具合に崖の基部に出ることができ、転落に対し100%安全とは言えないまでもそこそこ傾斜が緩く崖の基部は幅があって足場も確保できるのでトラバース可能だった。最後に短い区間のハイマツ漕ぎで崖直下の鞍部に到着。見上げると垂直ではないがかなり急な崖状地形だった。巻いて正解だろう。

 これでたぶん最大の難関は突破できたはずだと思うが、まだ立ったハイマツ藪は続く。2つ目の2670m峰に向かって登っていくが、この尾根の北側は急だが草付きでハイマツが無く格段に歩きやすいので滑落しないよう慎重にトラバース。どうしてもヤバそうな斜度になったところで尾根上に向かい尾根直上へ。ここはハイマツだが南斜面はハイマツが切れてシラビソ樹林で格段に歩きやすくなった。そのままトラバースし続けたら傾斜が厳しくなって尾根に復帰するともうハイマツは無くシラビソ樹林に変わっていた。これ以降はハイマツが登場することはなく、西側の2670m峰以西はハイマツは無いということだ。

 ハイマツが無くなれば大幅なスピードアップだ。シラビソ樹林は基本的に地面付近に藪は無いので道は無くともとても歩きやすい。場所によっては道らしき明瞭な筋があるが、おそらく獣道なのだろう。この高さだとカモシカかな。

 2666m峰は山頂のみ少し開けた明るい場所だった。ここから右の尾根に乗り移るが出だしは急で尾根がはっきりしない地形だった。少し東をトラバースする形で下ってから尾根に乗る。ここもシラビソ樹林で基本的に歩きやすいが、場所によっては尾根上に幼木が茂って歩きにくい個所もある。ただしこれまでのハイマツと比較すれば天国だが。尾根がはっきりすれば以降は分岐も無く、気軽に尾根上を進んでも外す心配は無い。熊ノ平までずっとこの状況が続くのなら楽なんだけど。たまに露岩が登場するが小規模で危険個所は無い。

 2485m峰はちょっとした岩で目立つ場所。いい目印となろう。2450m鞍部へと緩やかに下って登り返しにかかるとシラビソ幼木が茂って歩きにくくなる。ここには薄い獣道らしき筋があるので適当に隙間を狙って歩くと自動的にそれに乗る。途中で尾根右手の幼木が切れるのでそちらに乗り移って高度を稼ぐ。

 標高2520mで肩に出るが実際は小ピークが存在する。最初はここが山頂かと誤認したが三角点は無いし北に同じような高さの尾根が伸びているので誤りに気付く。三峰川側から登ってくると三角点のある山頂で傾斜が緩むが、熊ノ平方向から来ると傾斜が緩むのはこの肩だった。肩より先は明瞭な筋があって幼木も消え去って歩きやすい。

 最後に緩やかに登るとそこだけポッカリと樹林が開けた黒檜山山頂に到着。これで2度目だ。この世で2回もここに達した登山者はおそらく他にはいないだろう。10年以上前に見たKUMOは今でも健在だったが、こげ茶色のペイントが剥がれはじめていた。年月を感じさせる。前半のハイマツ漕ぎで体力を消耗したので日陰で大休止。汗の匂いで虫が集まってくるので濡れタオルで汗を拭き取って虫除けスプレーで肌を防御。さすがにこんな山に登るのは年間でも数人いるかいないかであろう、休憩中にやってくる登山者は皆無だった。

 さあ、熊ノ平への帰りも大変だ。ここからだと往路より登りが多くなるのでハイマツ漕ぎは余計に大変だ。2666m峰から東に進んでハイマツが始まる2670m峰で北斜面をできるだけトラバースしてハイマツを避け崖のある2640m鞍部手前で休憩。天候は高い場所は雲が掛かり始めにわか雨が降るかもしれない。濡れた草付き急斜面は滑りやすく滑落のリスクが高まるので雨が降る前に通過する必要があり、短時間の休憩で切り上げて先を急ぐ。

 休憩場所からすぐに例の崖ある鞍部に到着。往路は南を巻いたが見上げると手がかり足がかりは意外に多く、上部の岩もデコボコの大きな溝があり、登りなら突破できそうな気配。往路と同じトラバースでも急斜面の横断はあるしハイマツ急斜面を登る苦労もあって、このまま崖を登れるならそちらの方が労力は少ないと思えた。下りは無理でも登りは私の技量でもどうにかなると判断、まずは土壁の下部に取り付き潅木等を利用して岩区間へ。ここは手がかり足がかりの位置関係が微妙でイヤらしかったがどうにかクリア。岩上部の安全地帯へ出た。しかしこの上は高さ2mほどの岩で、その岩の上は頭上に蓋をするように横に張り出したハイマツ。これが無ければ強行突破できそうだが、岩は足がかりに乏しく最後はハイマツの幹にぶら下がって腕力で上がることになりそうだ。ここは無理をせず北側を巻くことにした。

 北側は草付きで歩きやすく、獣道らしい筋も見られたが少し先の小さな谷地形のトラバースは滑ればしゃれにならない滑落になる個所で、ロープのバックアップ無しで突っ込む勇気は私にはなく、ここで尾根上に進路を戻すことにした。急な斜面だが岩は無いのでハイマツの隙間に潜り込んで尾根上に出られた。その先には往路では気付かなかったが岩峰があり、これを登るのは無理だろうとビビったが簡単に巻けるルートが見つかった。たぶん往路もそこを通ったのだと思う。

 これでやっと最大の危険個所を通過したが、この先は痩せたハイマツ尾根が続く。できるだけ藪を迂回しながら進み、2695m峰への登りは南側を大きく迂回して草付き斜面を登った。ここはハイマツが無くて容易に高度を稼げた。

 帰ってからGPSの軌跡を見て判明したが、復路のルートは藪が薄かった往路よりずっと南で2695m峰を越えたようで、草付きが終わると往路と違って一面のハイマツの海。比較的ハイマツが薄い小さな谷地形を進んだがその先もハイマツの海。その海を漕いでピークの一角に出て小屋に続く東斜面を見たが、結構な距離でこのハイマツが続いていた。左手(北)方向は上部までダケカンバ帯が入り込んでハイマツが薄いのは見て取れたが、立ったハイマツの中を横移動するのはほぼ不可能。若干進路を左に振りつつも重力の助けで下を目指すしかない。ハイマツ帯が終わった時には本当にほっとした。もう藪は無い!

 歩きやすいダケカンバ帯、シラビソ帯を下ってテント場のすぐ近くで草付きに変わりテント場到着。ちょうど三峰岳方面から登山者が降りてきたところだったが、私の姿を見てどこからやってきたのかと思っただろうか。

 テントに戻って荷物を置き、水場に行って濡れタオルで体中の汗を拭ってさっぱり。生き返った! 今日もテント場は大賑わいで出発時は私の周囲にはテントは無かったが大型テントに一人用テントが建っていた。その後、テント2張、ツェルト1張が増えてこのテント区画は満杯に。他の区画も傾斜地を除いて満杯状態だった。

 久しぶりのハイマツ藪漕ぎに疲れて昼寝。ガスが下りてきたが雨が降ることはなかった。

 横になりながら翌日の行動を検討。今回の山行の目的は達成したので、あとはお気楽に下山するのみ。食料はもう1泊分あるのでルートの自由度は大きい。一番楽なのは往路と同じく両俣小屋から野呂川出合に出てバスに乗ることで、これなら明日中に下山が可能だろう。ただしせっかくここまで重い食料を担いだのが無駄になる。間ノ岳、北岳を越えて御池小屋で幕営して翌朝下山のパターンも可能。もう一つは農鳥岳を越えて大門沢を下って大門沢小屋で幕営、翌朝に奈良田まで歩くルート。いろいろ考えたが時間の自由度が大きいこと、ハイマツ漕ぎで疲れたので明日は楽な行程にしたいとの判断で大門沢を下ることに決定。間ノ岳には登らずに、まだ歩いたことがない巻道を進んでみようと思う。

 翌朝も快晴で星空。まだ暗い4時過ぎに出発。周囲も動き始めているが暗い中を出発するのは少数派のようだ。ここは1級の登山道なのでライトの光でも迷うことはない。森林限界を超える頃に明るくなってライトは不要に。農鳥小屋への巻道分岐がある三国平で右手のハイマツの切り開きに進む。ハイマツの刈り払いは完璧ではなく朝露に濡れたハイマツで手足が濡れるが許容範囲。昨日の藪漕ぎを考えれば天国だ。

 三国沢源頭は水が流れていた。ここは渇水期も年中無休だろうか? その先でも1箇所水が出ている場所があり、熊ノ平から水を担がなくてもよかったのであった。巻道は完全に水平移動ではなくアップダウンがあって意外に疲れる。最後のガレた農鳥谷は大きなアップダウンで、累積標高差を考えるともしかしたら間ノ岳に登っても大差なかったかもしれない。まあ、初めて歩くルートを経験できたので収穫だったが。間ノ岳への縦走路合流点でしばし休憩。下ってくる登山者がぽつりぽつりと見られた。

 農鳥小屋は素通りして西農鳥岳への厳しい登り。先方を歩く軽装の男女2人にはさすがに追いつけないが、今日の行程はゆるゆるなのでのんびり行けばいい。強いて言えば涼しい時間帯に到着するために早く歩くのは悪くはないが、昨日の藪漕ぎ疲労があってそれは無理だ。今日は珍しく東寄りの風が吹いていた。

 3000m肩の手前で道端に雷鳥を発見。先に通過した人の話しでは子供もいたそうだが私が通過したときには子供はハイマツの中に入ってしまって親一羽しか見えなかった。でも距離にして3mほどしかないのに逃げず、思う存分写真撮影できた。この上天気で雷鳥を見られたのだからラッキーだ。

 西農鳥岳山頂標識のあるピークでちょっとだけ休んですぐに東隣の地形図上の西農鳥岳に登り返す。いつも片方のピークからもう片方のピークを見ても、どちらのピークの方が高いとは言えないくらいなので、もしかしたら本当に両方とも同じ標高かもしれない。

 一度尾根を離れて下る途中に簡単な岩を越える個所があるが、ここは不慣れなパーティーは通過に手間取って渋滞することもあるが、今日はまだ北岳山荘や肩の小屋を出発した登山者がやってくる時間より前なので人はほとんどいない。前を歩いていた軽装の男女を追い越す。トレラン並の装備だが足元は登山靴なのでランナーではない。いったいどこからやってきたのだろうか?

 最低鞍部から登り返し。ここが最後の登りだ。昨日の疲労が抜け切れず足が重いが西農鳥岳への登りを考えれば楽なものだ。

 東農鳥岳山頂に到着。山頂は珍しく無人かと思ったら東に一段下がった平坦地に単独男性が休憩中だった。今日も好天で南は深南部までよく見える。追い越した男女が到着したので話しを聞くと、広河原を出て初日は御池小屋で幕営。今日は暗い時間に出発して北岳、間ノ岳を越えて三国平巻道分岐で荷物をデポして農鳥を往復し、本日の幕営地は熊ノ平とのこと。なるほど。それなら軽装が理解できる。明日は蝙蝠岳で幕営し、翌日に伝付峠を越えて新倉に下山し、車を置いた奈良田へバスで戻る周回ルートとのことだった。足は遅いようだが早朝から行動を開始してルートを伸ばす行動パターン。ご苦労様。こちらは申し訳ないくらいのんびり行程で、話しをしながら山頂でしばしくつろいだ。

  まだ時刻は早いが気温が上がる前に大門沢小屋に下ってしまうことにして出発。いつもは西寄りの風で農鳥岳を下るとすぐ稜線東側をトラバースするので風が当たらず日は当たって暑い場所だが、今回は東から風が吹き上げているので稜線でなくても風通しが良くて快適だった。

 大門沢下降点から急降下開始。農鳥岳山頂から小屋まで標高差約1300mを一気に下るので一般登山者にはきつい下りだろう。ここを歩くときは毎度のように何人も追い越すことになるが、今回もそのとおりになった。標高が落ちてくると汗の量が増えるので、気温が上がるのが体感的にはっきりと分かる。標高2700m付近で樹林帯に突入して日陰に入るのでまだマシだが、それでも徐々に汗が滴り落ちるようになって濡れタオルの出番。

 標高2100m付近で左側に沢が接近するが、しばらくは岸は切り立っていて沢に下ることはできない。標高2050m付近で岸が緩やかになりアクセスしやすい個所が1箇所だけあり、水浴びのためここから沢に下る。前回はすぐ上流に雪渓が残っていたが今の時期はもう雪は消えていた。それでも充分に冷たい水で汗臭くなったタオルを洗って全身の汗を拭いてさっぱりした。ちなみに大門沢小屋の水源はこの沢ではないのでご安心を。

 再び下り開始。前回ここを歩いたのは梅雨明け前で登山道が横切る沢は水が流れていたが、今回は橋がかかる1箇所を除いて水は枯れていた。これが通常状態だろう。水浴び場所としては私が選択した場所が最適だろう。そして大門沢ルートを登って南嶺を縦走する場合、そこが最後の水場となる。大門沢小屋よりも標高が300m近く高いので少しは労力削減可能だ。

 傾斜が緩くなってくれば小屋は近い。樹林帯なので小屋の存在はかなり接近しないと分からず、突然赤い屋根が現れて小屋到着が分かる。まだ時刻は早くこのまま奈良田へ下ることは充分可能だが、食料、酒は残っているので計画どおり本日はここまで。明日朝の涼しい時間帯に奈良田へ下ろう。まだテントは1張も無し。今回は川沿いの樹林帯に張った。川の音がうるさいのが難点だが樹林の中で日差しが遮られるため、今のような真昼間からテント内で昼寝が可能なのがうれしい。点と設営前に川に行って再び水浴びし、虫除けスプレーでガードしてから設営。前回は設営中に刺されたからなぁ。

 テント内でダラダラ過ごしているうちに周囲にテントが増えてきた。満杯になるほどではないがそれなりの数となった。

 翌朝、いつもと同じくまだ真っ暗な4時に出発。7月よりも日の出が遅くなっているので1時間くらいライトのお世話になるかな。1ヶ月前の記憶があるのでライトの光でも迷うことはなくたぶんスピードが落ちることもなかっただろう。樹林帯を歩くので5時になってやっとライト不要になった。

 ちょうどその時刻に登ってくる男性2人組が。奈良田発にしてはかなり早い。被った帽子には「POLICE」の文字。警察関係者らしい。そういえば昨日夕方、かなり暗くなった時間帯に男性が救助を求めて下りてきたことを思い出した。私は酒を飲み終わってアルコールが回って寝る前だったので行動は不可能、協力できなかったが、小屋の関係者や小屋泊まりの登山者数人が上がっていったのだった。どうやら同行者が疲労で動けなくなったらしかった。下山後、地元新聞でも大門沢での遭難記事は出なかったので無事に救出されたようだ。

 警察官とすれ違った沢は前回は増水して渡渉場所を決めるのに少し悩んだが、今は気軽に渡れる程度の水量だった。これなら橋がなくても問題無し。一度尾根を越えてから急激に高度を下げて吊橋を渡れば林道は近い。迂回路で小尾根を越えて斜面を下ったが、工事は前回より進んでいて削った斜面にはコンクリートが吹き付けられていた。

 林道に出てからは林道歩き。本当は登山者用の迂回路があるが早朝で工事はまだ始まっていないのでショートカット可能な林道を歩いた。登山道の吊橋を渡って大門沢を目指す登山者とすれ違う。この人が本日初めての登山者だった。

 林道横の登山者用迂回路入口付近に車が止まっていて、これが2名の警察官の車だろう。この後は退屈な林道歩きで携帯音楽プレーヤーを聞きながら歩く。まだ早朝で気温は低く汗がほとんど出ないは大助かり。昨日日中に下ったらこうはいかなかっただろう。

 開運随道入口にはゲート管理人がパラソルの下で待機中。今日の奈良田始発は5:30発のはずだから既にバスは通過後。しばらくは通行する車はないだろう。車はいなかったが大門沢へと登っていくトレランナー、登山者はポツポツといた。

 奈良田第2駐車場にはバスの待ち行列は無し。次は8時発だったかな。駐車場の入りは50%くらいでまだまだ余裕があった。奈良田第1駐車場は満杯のままで隙間無し。私が駐車した場所は草が多く虫に刺されそうなので車をダム湖岸の公園に移動し、テントを虫干ししながら着替えたり荷物整理したり。ここは谷間でまだ直射日光は差し込まないので涼しくてよかった。


 今回は基本的には避暑目的ののんびり山行だったが、オプションの黒檜山が加わったことで充実した山行にできた。当初予想しなかった立ったハイマツ藪や危険個所に悩まされたが、ネットでも情報が極端に少ないルートの貴重な情報を付け加えることができた。ただし、黒檜山に登るだけならこのルートはあまりお勧めできない。時間は掛かっても三峰川側から往復した方が明らかに楽で危険性は低い。熊ノ平まで入る時間と労力を加味すると三峰川側からの方の優位性はさらに高まろう。以前のように三峰川沿いの林道が大曲まで入れるようになるといいのだが。

 

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